★ファーストアルバム/ライナーノーツ
この出来上がったばかりのBoss & The WailersのCDを聴いていると、アメリカのどこかの田舎町に一人旅に行ったついでに立ち寄った古ぼけたロックバーでたまたま出くわしたバンドのライヴを観ているような気分にさせられる。個人的にそのような経験をしたことはないのだが、そういうバンドを観てみたいという妄想をかきたてられる。
しかし、このバンドはアメリカのバンドではなく、日本のバンドで、決してプロフェッショナルな活動をしている訳でもない。でもそのサウンドから感じられる雰囲気というか、ニュアンスのようなものが、ひょっとしたらアメリカに行ったらこんな感じのバンドがいるのではないか、というか、いたらいいなあ、と思わせてしまうのだ。
Boss & The Wailersは静岡で活動を続けているバンドである。個人的な意見であるが、日本のバンドはアメリカなどに比べると、それほど地域性を感じさせることは少ないように思える。アメリカではニューヨーク、ロスアンゼルス、シカゴ、デトロイト、ニュージャージーなどでサウンドが明確に違う。もちろん、日本にも上田正樹とサウス・トゥ・サウスや憂歌団といった70年代の関西ブルース系のバンドや、サンハウスを筆頭とした博多のめんたいロック、めんたんぴんの金沢など、それぞれ地域ごとに個性的なサウンドを打ち出してきた素晴らしいバンドが存在していたことは事実である。しかし、昨今の日本の音楽シーンではそれほど地域性を打ち出しているようにはあまり思えないような気がするのだ。
Boss & The Wailersのサウンドが魅力的な理由は、この「静岡」に秘密が隠されているように思える。静岡といえば、静岡を本社に持つCDショップ「すみや」が知られている。この「すみや」が音楽のみならずさまざまな文化の発信源となっていることが、静岡の音楽シーンに影響を与えていることは間違いない。つい昨年(2008年)には「静岡ロックンロール組合」という、静岡の高校生達のバンドが1973年に録音した幻の自主制作LPがCD化され、一部で大評判になったことも記憶に新しい。一言ではうまく言えないが、ピュアな衝動と熱い行動力を感じさせるバンドを生み出す力が静岡に隠されているのだろう。
Boss & The Wailersは、約25年前にロック、ブルース好きのBoss
とToshichanが出会ったことからその歴史が始まる。二人でギターを弾きながらブルースを演奏していたところにTomo-no
が参加。その頃すでに発電機(!)を購入し、エレキでストリート・ライヴを行っていたというのだから根性が入っている。1994年ごろにドラムスのSano-kunが加入。現在のバンドの基本形が整った。一方、バンドと並行して、Bossが静岡市内にバー“ウェイラーズ”を開店し、その店名がバンド名になったという。筆者が冒頭に書いたような感想を最初に感じたのはこういった事実があったからかもしれないが、後からこのエピソードを知ったのでなんだかとても嬉しくなってしまった。メンバーそれぞれ仕事を持ちながらのバンド活動なので、精力的というわけには行かない時期もあったようだが、昨年ごろから再び活発化し、ライヴも頻繁に行うようになった。なんと、ブルースがお好きな方なら誰でもご存知の妹尾隆一郎(ウィーピング・ハープ・セノオ)や永井“ホトケ”隆のオープニング・アクトも務めたという。
このアルバムは現在の彼らの最も脂の乗りきったサウンドが見事に凝縮されている。各楽曲についてはBossによる詳細な解説がこの後たっぷりとあるので、ゆっくりお読みいただきたい。
残念ながら静岡のバー“ウェイラーズ”は10年以上前に閉店してしまったそうであるが、もしもその時代に戻れるならばビール片手にBoss & The
Wailersのライヴをゆっくりと楽しみたいと思う。
2009年11月18日
島村文彦 (Island Moon Music)
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